第8回「会社都合によるテレビ番組収録の思わぬ効用」
私をテレビに出させるために企画した「ワインポイントレッスン」は、ゴルフ人口の増加という時代背景もあって、まあまあの評判を得ることができました。もっともゴルフ番組としての本命はトーナメント方式による勝ち抜き戦。有名にならないと出られないというんなら有名になってやろうじゃないか。そんな気持ちでワンポイントレッスンの収録をしていました。高額の給料をいただいているからには、こういう仕事もしょうがない。そんな気持ちも正直ありました。
まさか、この番組の収録経験が後の試合に役立つとは思っていませんでした。私にとって飛躍となる試合「日本プロゴルフ選手権」の第40回大会です。この選手権は1926年に始まった日本最古の伝統ある大会。戦争で中断したものの1949年には復活して人気を得ていました。
日本のゴルフ界の、文字通りトップを決める大会。と同時に、この大会で20位以内に入ると、翌年の試合には全部参加できるという特典が付与されるのです。青木功、尾崎将司、中嶋常幸、デビット・イシイなどなど、名選手を多数輩出していることでもこの大会に勝るものはありません。そして私の頭には、所属するスリーボンド社のもちつき大会での一般社員の冷ややかなつぶやき「優勝してから言ってくれよな」がこびりついていました。
会場は千葉県の紫カントリークラブ。上位の試合になるとテレビ放映があります。活躍している一部のプロを除いては、撮影された経験なんてありませんから、当時まだ16ミリだった撮影機を回す音には慣れていません。これがシャーシャーと大雨でも降っているかのようなすごい音。お、今撮影に入ったな、と分かるものですから、撮影機にせかされているようで、テープが回っている間に打たなくちゃいけないような気分になってしまうわけです。テレビ局への義理もないのに、不思議なものです。すべてシャーシャーという音のせいですよ。
ところが私はワンポイントレッスンの収録でこの音に慣れていました。よって冷静なプレーができます。おかげで成績は順調。とうとう前年優勝のジャンボ尾崎と優勝を競うところまでいきました。無名の金井かジャンボか。観客席もおおいに沸きました。